相続放棄、この難しげな言葉に人生で一度だけ遭遇したことがある。
数年前にさかのぼるが、母方の祖母の兄が亡くなったのだ。
母方の祖母とは同居していたが、祖母の実家にあたる家があり、そこに兄夫婦が住んでいた。
夏休みで田舎に帰るといえば、その家だったのである。
今時珍しい藁ぶき屋根の家と、いまだにあるボットン便所が印象的であった。
兄妹仲も悪くはなく、兄嫁と祖母の仲も良いように感じられた。
祖母の兄妹は全部で7人いたらしいのだが、戦死や病気で、既に2人兄妹になっていたのだ。
その兄が亡くなった時に、兄嫁から祖母へ、相続の放棄を要望されたようである。
そもそも、祖母には遺産相続をする意志はなかったのである。
自身が娘(つまり私の母)と同居していて、年金ももらっているので、何不自由ない生活をしているのだ。
しかし、兄の死後に兄嫁から電話があり、結構きつい言い方で、長く兄の介護をしていたのは自分であることを強調され、頭ごなしに遺産相続をしないでほしいと言われたようである。
これに祖母はかなり落ち込んでいた。
「お金が絡むと、人は言い方がきつくなるね」と私にもらしていたほどだ。
結局、遠方のため、祖母が一人で実家に行くことができず、父が休みを取って連れて行き、手続きをすべて済ませてきた。
兄妹仲が悪くなくても、こんなもやもやした感じになるとは。
生前から、きっちりお金の話をしておくにこしたことはないようである。